現在進めているプロジェクトの内容
I2TAではTAの制度分析、手法(枠組み)構築、ナノテクノロジーを題材にしたTAの実践という三つのグループによる活動のほか、全体的な企画戦略の策定やアウトリーチ活動も展開しています。また、諮問委員を設置し、独立不偏を保持したTA機関や実践のあり方として妥当であるかという観点から、TAの実践とI2TAの運営について検証を進め、プロジェクト成果の社会的信頼を高める取り組みを行っています。
制度分析グループ
TAの制度化・実践についての教訓導出
欧米におけるTA機関の制度化の選択肢に関して、各々の政治構造・文化への配慮、導入プロセス、品質管理、人材育成などに着目しつつ整理しました。また、日本の過去のTA及びTA的活動の試みの分析を通して、成果の活用への意識、課題設定やアウトリーチの重要性を明らかにしました。
第三世代TAの提唱
欧米や日本での経験を踏まえ、専門家中心(第一世代)、市民参加型(第二世代)のTAを包摂しながら、既存の知的・人的資源を活用しつつ幅広い主体によって進める新しい分散型TAのあり方として第三世代TAの考え方を提唱しています。
政策提言・アクション
文部科学省の基本計画特別委員会や日本学術会議などに対して働きかけ、テクノロジーアセスメントの専門機関の設立・制度化の必要性をアピールしました。その成果の一部は「第4期科学技術基本計画への日本学術会議の提言」や、「我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けて—ポスト第3期科学技術基本計画における重要政策」の中間報告に反映されました。
手法(枠組み)構築グループ
議題設定プロセスの分析
方法論的に最も重要かつ困難な課題の一つは、TAの議題をどのような形に設定するかというものであり、これは問題構造化手法の考え方を実践する上でも中核的活動です。今後のTA活動における議題設定の指針となる知見をボトムアップに抽出すべく、実践グループにおけるその経緯を整理・分析しています。
作業負荷量の調査分析
トロンボーンのスライドの位置は何ですか
TA活動を行うにあたり、どの程度の作業負荷量がどのような局面で発生するのかを把握することは、TAの組織、必要な資金量等を具体的に提言する上で欠かせません。そこで各TA実践グループの作業負荷量を把握するためのフォーマットを作成しています。また、対象技術や議題の設定方法、TAの進め方による負荷量の違いや、運営の部分的な外注による負荷軽減効果も検証しています。
包括的問題構造化手法の開発
包括的な議題設定のあり方を検討するために、ナノテクノロジー全体を対象として潜在的な検討課題を洗い出すための手法を開発し、それを実験的に適用しています。これは、ナノテクTA実践グループにおける焦点を絞った議題設定に基づく活動を第三者的視点から検証するという役割も担い得ます。
ナノテクTA実践グループ
平成20年度は医療・食品・エネルギーの3分野について対象課題を絞り込み、TAを実践するための事前調査を実施しました。これを踏まえ、平成21年度は以下のような活動を行っています。
医療分野
ナノドラッグデリバリーシステム(DDS)1 を題材に、がん治療などに期待されるナノ技術を応用したDDS製剤の開発・導入における諸課題について、幅広いステークホルダーの協働によるTAを実施しました。医工薬および産学官連携のあり方(7月)、安全性及び効果の検証(12月)をテーマに専門家パネルによる円卓会議を開催し、そのパネルによる成果報告書を公表しました。
1 Drug Delivery System(DDS:薬物送達システム)は、薬物にある種の衣を着せて、「必要な場所」に「必要な量」を「必要な時間」だけ作用させる、すなわち薬物の効果を最大限に発揮させるための理想的な体内動態に制御する技術・システムのことをいう。具体的には、①目的への到達(ターゲティング)、②放出の制御(コントロールリリース)、③吸収改善の3 つに大別される。なお、このようなDDS のテクノロジーは、治療だけでなく、診断にも使われる場合がある。
食品分野
内部のコミュニケーションを改善する方法
フードナノテクの製品インベントリの作成を進めつつ、9月には専門家と消費者代表とのワークショップを開きました。これからは専門家パネルを設置して行政や消費者が有効に活かせるフードナノテクの評価基準をTAとして明らかにするとともに、対話型ウェブシステムを用いてのTAのあり方を試行します。
エネルギー分野
住宅の将来のあり方や住まい方、および将来の住宅におけるエネルギー利用やナノテクノロジーの応用可能性について把握するため、11月に議題設定のための参加型ワークショップを2回開催しました。現在はこの成果をもとに期待される技術の精査やトータルな住宅像の描出を行う「未来志向型(フォーサイト的)TA」を目指しています。
このほか、子宮頸がん予防の観点からHPVワクチンの技術的特性と導入における課題について、メンバーではない学生が中心となってミニTAに取り組んでいます。これはTAの運営体制や人材養成のマニュアル化や、制度化に向けた外部者の巻き込みの実験という目的を持っています。
アウトリーチ
TAの社会的定着に向け、TAの意義やI2TAの取り組みを広く社会に知ってもらうために21年度からアウトリーチ活動を本格化させました。以下のような活動を行っています。
サイエンスアゴラ 2
サイエンスアゴラ2009にて「最新技術から社会を考えるロールプレイ」と題したワークショップを主催し、拡張現実3 についてどのような将来の社会的影響があるか参加者と一緒に議論するとともに、TAとは何かについての理解も深めてもらいました。
2 サイエンスアゴラは、"科学と社会をつなぐ"広場(アゴラ)となることを標榜し、科学技術振興機構(JST)の主催により2006年から始まった。一般市民から科学者・研究者まであらゆる人に開かれた広場として、各地で活動するNPOや企業、公的機関、大学研究室などの団体やボランティア活動や研究を行う個人が、シンポジウム・ワークショップ・ショー・展示など多くの企画を出展する。これらを通じて、科学と科学が社会にもたらす影響や、科学にまつわる様々な問題について、共に考え、楽しむ双方向のコミュニケーションを行うイベントである。
3 仮想現実(VR)がコンピュータなどによって作り上げられた現実に似た環境を指すことに対し、現実の環境に情報を付け加える技術や、情報を加えられた環境そのものをいう。英語表記はAugmented Reality(AR)。実際の商品としてたとえば「セカイカメラ」があり、スマートフォンのカメラが映し出す現実空間に重ね合わせて、現在位置に対応した情報をインターネットから取得して表示するほか、利用者自身も情報を投稿することができる。
ニュースレター
I2TAの活動状況を定期的に報告するため、「i2TAYORI(アイツーたより)」というニュースレターを作成し、第1号を8月、第2号を12月に発行しました。巻頭言、主なイベントの紹介、実践グループ各チームの進捗などを紹介し、200名を超える関係者に送付・配布しています。
ホームページのリニューアル
より親しみやすく、情報を迅速に更新できるように、10月にホームページのデザインと内容を一新しました。以降、訪問者数は月に2000名を超え、着実にアクセス数を伸ばしています。
諮問委員の設置
平成21年5月より、I2TAの運営体制の透明性・信頼性を高めるためにプロジェクト諮問委員を設置し、プロジェクトの全体方針や各実践チームのプロセスなどに対する助言を受けています。プロジェクト外部諮問委員は唐木英明氏(東京大学名誉教授)、武部俊一氏(日本科学技術ジャーナリスト会議会長)、内部諮問委員は黒田光太郎、土屋智子の両メンバーです。
課題
内部研究体制の再構築
これまでプロジェクトリーダーであった鈴木達治郎が平成22年1月より原子力委員(常勤)に就任することとなったため、研究代表者は城山英明に変更されました。また、活動の重点が実践・広義のアウトリーチに置かれていくことに対応して、制度分析グループと手法構築グループを統合し、そのリーダーを城山英明としました。
社会的定着に向けた連携体制構築
制度化選択肢の提示自体はI2TAプロジェクトだけでも可能ですが、この実装の働きかけは政治的性格も持つものでもあるため、I2TAだけではなく委託主体のRISTEXなどとも連携しつつ、柔軟かつ機動的に行動できる体制を構築する必要があります。
安定的財源の確保
将来のTAの最大の課題は安定的財源の確保です。TAは言わば日常的活動であり、必ずしも革新的な研究開発や発見を常に伴うものではないため、研究開発を目的とする財源に依存し続けることは限界があります。どのような論理により安定的財源を確保するのか、他方その安定性に安住しない組織文化をどう構築するのか、財源とTA活動の独立不偏性をどう保つのか、が今後直面する問題であると考えられます。
人材育成とキャリアパスの開発
制度化と並んでその担い手の育成も同時並行で進める必要があります。理系の経験・感覚を持つ若手のTA実務者を確保することにこれまで苦労しています。今後は分野横断的でバランスの取れた人材をどのように発掘し、トレーニングしていくのか、どのようにキャリアパスを確保するのかという課題があります。
今後の計画
平成21年度末までに行う制度化の選択肢を整理を基礎に、各選択肢の必要条件を平成22年半ばまでに詰め、以降は精力的に各方面へ制度化を働きかけていきます。同時期に実践グループの活動も終了しますが、その後は社会的関心の高いテーマでいくつかのミニTAを実施することで、TAの認知度を高めるとともに人材育成に努める予定です。
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